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おすすめ度:★★★★★
プレイ時間:8時間程度


 懐かしい感じのグラフィックですね。実際にやってみたところ、古き良きRPGのエッセンスを継承しながら、洗練が必要な部分は洗練されている、という印象を受けました。ストーリーも少年の冒険譚でありながらも、それだけには留まらない。そこには様々な葛藤がある。戦闘システムもシンプルかつ面白い。マップもきれいで、音楽もいい。戦闘ではキャラクターがアニメーションします。ユーザー投票企画、フリゲ2016でも多数の票を獲得。

ストーリーとそのあらすじ

世界を冒険する冒険者、グリム。
新大陸へ行くために船に乗り、海を渡っていたところ
嵐に巻き込まれ海へ落ちてしまう。
目をさますとそこは薄暗い海の底の洞窟。
グリムはそこで出会った少女とともに海底洞窟からの脱出を試みる。
公式サイトより引用)

 常にストーリーの先が気になって楽しかった。世界の成り立ち、自分たちの行く末、ミステリアスで無口な少女、そして主人公の出自……色んな「謎」が少しずつ明らかになっていく。

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ゲームシステム

 戦闘システムは、シンプルな2vs1のサイドビュー。キャラクターの下に表示されているゲージが満タンになると行動できます(FFのようなATBではないのでゆっくり考えられる)。本作にはレベルという概念はなく、特別な敵を倒す等で入手できる「黄の楯」というものをステータスごとに配分します。これはいつでも自由に振り直しが可能です。敵に合わせたステータス配分を行うことがカギになってくるでしょう。
 私は難易度(3段階から選択可能)「普通」でプレイしましたが、ボスはなかなか手強かったです。私の探索が甘いのか(黄の楯)、戦略が悪いということも考えられますが、若干相手の行動やクリティカルの運に左右されているという感じもしました。しかし、理不尽というほどでもないでしょう。むしろ試行錯誤が楽しい。

 公式サイトのQ&Aにもゲームのヒントがあります。

総評

 エンディングを見た時点での本作の率直な感想としては、ストーリー良し、ダンジョン良し、戦闘良し、グラフィック良し、音楽良し……という非常に満足度の高いものでした。かなりの傑作RPGだと思います。

 ただ、唯一気になったのが一番最初のダンジョンです。このダンジョンだけ、「比較的迷いやすく、しかも敵とのエンカウントが多め」というものになっていたと感じました。他のダンジョンでは、それほど迷いやすくもなく詰まりやすいギミックもなく、敵シンボルも十分に回避する余地があると思うのですが、最初のダンジョンでは狭い道に敵シンボルがいて回避するのがとても難しく、しかもダンジョンを結構歩き回らないと先に進めない、という状況になっていると思います。他の部分はプレイアビリティによく配慮されているのに、この部分だけが少し浮いているような感じがしました。
 本作が優れた作品だという評判を知っている方なら問題なく許容範囲だと思います。他のゲームと比較してもそんなにいちいち指摘するほどのことでもないのかもしれません。ただ、評判を知らずに本作を30分~1時間程度プレイした人は「ずっとこの調子が続くのか…」と判断し、忙しい生活を送る方の中には投げる人がいるかもしれません。「それはもったいない。先に進めばそういうわけじゃないよ、すごく楽しいよ」ということを伝えたかったので一応触れておくことにしました。この程度の小さなことが気になった点として挙がってくること自体、本作が優れているということでもあるのかもしれませんが。

『グリム・ディエムの冒険録 あるいは忘れられた海の底で』のダウンロード(フリーゲーム夢現)

【こちらもおすすめ】
懐かしい感じのグラフィック・2vs1のシンプルで面白い戦闘繋がり:『リリアン・クー』暖かく優しい世界。しかし厳しさや切なさから目を逸らしてはいない。戦闘も骨太な、ほのぼのお散歩RPG
テンポが良くわかりやすい戦闘・細やかな演出とアニメーション繋がり:『かはたれどき+』(「エターなった定食」より)美麗なドット絵アニメと心を打つ物語の短編RPG

長めのネタバレありレビューと感想(要注意)

 以下、本作のストーリーの重大なネタバレを含みます。未プレイの方はご注意ください。





 すごく面白かった。これはいつの時代においても重要な物語だと思う。

 世界の叙述、未知への冒険、海底の人々と地上への憧れ、死後の楽園「イルブランシュ」に対する様々な捉え方、主人公の過去とミナモの葛藤、保守的・伝統的社会とその停滞の中に「死」を見る若者達……。

 私の感じたところでは、この物語は「何らかの欠乏に耐え忍ぶという農村的美徳・日本的美徳を乗り越えて、危険を冒してでも現実を理解・格闘・改善し、死後の彼岸ではなく現世における幸福を求める」というものだと思った。
 それは主人公・グリム(と兄)の物語でもあり、ミナモの物語でもある。主人公の生まれ育った村は「他人と自分が同質であることを強く求め、また異質なものを排除する」という典型的な農民の原理で成り立っており、グリムと兄はそこから脱出し、希望と危険のある未知の世界へと冒険に出た。そして、主人公の今回の冒険は、海底洞窟から始まり、アド(監獄)を経て塔を上り、光指す地上を目指すというものであった。

 農村の美徳は耐乏、忍苦の精神だという。乏しきに耐える精神などがなんで美徳であるものか。必要は発明の母と言う。乏しきに耐えず、不便に耐え得ず、必要を求めるところに発明が起り、文化が起り、進歩というものが行われてくるのである。(坂口安吾『続堕落論』)

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 しかし、伝統的社会の人々(本作では主人公の生まれ育った村と、海底を支配している統監塔の価値観)がやかましく指摘するようにその冒険には危険や犠牲がつきもので、失われた人々の魂も受け継いで若者は進んでいくことになるのだろう(エンディングにも、兄・師・龍がそれぞれのものをグリムに伝えたという記述がありますね)。つまりここには「継承」という概念がある。死者の経験・思考・試行錯誤・献身が「継承」されていくがゆえに、歴史が刻まれ、種族としての前進があるのだと思う。死は決して無駄にはならない。魂は次世代へと受け継がれていく。

『死は好むものでもなく、また、憎むべきものでもない。世の中には、生きながら心の死んでいる者がいるかと思えば、その身は滅んでも魂の存する者もいる。つまり小生の見るところでは、人間というものは、生死を度外視して、何かを成し遂げる心構えこそ大切なのだ』吉田松陰(29歳、処刑直前に)
※幕府に刃向かった松陰が、安政の大獄で刑死する直前に、獄中から当時20歳の高杉晋作に送った手紙から。以降、この手紙は晋作の行動指針となる。松陰の熱い生き方は多くの若者の心を揺るがし、9年後の明治維新へと繋がっていった。
続・魂の救命ロープ/人生の名言101 / 文芸ジャンキー・パラダイスより引用)


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 現世は仮の世界で死後に真実の楽園があるのか、それとも(様々な苦しみに満ちた)現世が本当の世界でそこで幸福を求めるべきなのか、ということも古来から多くの人々が考え続けてきたテーマであり、メジャーな宗教の間でも意見が分かれる問題ですね。

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 最後に、ミナモの葛藤とは何だったのだろうか。統監塔の慣習と倫理と、抑えきれない未知の地上への憧れ。この二者の対立と、物語の結末での「ぼくの人生はここだ」という判断は何を意味しているのだろうか。それは無意味な迷いだったのだろうか。私は決してそうは思わない。片方の価値観への葛藤無き盲目的服従は人格を損なうものだと色んな心理学が指摘している(エリクソンとかユングとか)。葛藤した上での選択ということが非常に重要なのだろう。

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例え強いられた運命であっても、自分の意思で選び直せというのか。
(『蒼穹のファフナー』第16話 皆城総士)

(ファフナーはこの前のニコニコの一挙放送で一部を見ただけなのでセリフの解釈が変だったらすみません)
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