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『図書館奇譚』は、村上春樹の初期の短編集「カンガルー日和」に収録されている作品であり、絵本にもなっている(絵本と言っても、文章が中心で挿絵が多めという感じ)。

しかも創作意欲を刺激するらしく、2パターンの違う絵本になっている、絵本のタイトルは「ふしぎな図書館」(絵・佐々木マキ)と「図書館奇譚」(絵・カット・メンシック/ドイツ人)。しかも、小説の文章も複数のパターンが存在するという込み入った状態になっている。ただ、どれを読んでも面白いので問題はないww

ここでは、原作の小説『図書館奇譚』と、「ふしぎな図書館」(絵・佐々木マキ)の感想や考察について語ります。カット・メンシックの絵本版はまだ読んでません。佐々木マキ版はコミカルな感じの絵で、カット・メンシック版はダークで写実的な絵(後で)なので、両方読んでみると面白そう。

ふしぎな図書館 (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
2008-01-16


まず、『図書館奇譚』が収録されている初期の短編集「カンガルー日和」どんな感じ? <簡単な考察・感想>

初期の短編集だけあって、他の短編集や長編とはかなり雰囲気が違います。でも、頻出のモチーフはすでに登場しています。洋風な食事シーンとか、電話とか、不思議な感じとか、女の子との出会いとか、オールディーズな音楽とか、”羊男”まで。

全体を通じて、癖がない短編集です。よく言えば、他の村上作品がちょっと苦手、という方でもすっきりと読めそうな感じ。悪く言えば、薄味というか、物語を理解する手がかりに乏しいという感じもする。詩に近いような風合いもある。

文章はかなり読みやすいので、ここから村上春樹を読み始めるのも良さそう。他の作品だと癖が強くて反発しそうな方も、ここからなら受け入れてくれることが期待できそう。長編を読むのはしんどい方にも、「村上春樹ってこんな感じだろ?」ということがさくっと理解できるのでおすすめです。頻出のモチーフは出てくるので。

あと確か性的な表現がなかったと思うので、小学生くらいのお子さんに読ませてもいいかもしれないくらい。

カンガルー日和 (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
1986-10-15



やれやれ、『図書館奇譚(ふしぎな図書館)』のあらすじだ

図書館の貸出しコーナーには見たことのない中年の女性が座っていた。「僕」が本を捜していると言うと、彼女は「階段を下りて右。107号室」と言った。この図書館に百回も来ているが、地下室があったことは初耳だった。107のドアを開けると顔に小さなしみがいっぱいついた老人が古い机に座っていた。「僕」は言った。

「実はオスマン・トルコ帝国の収税政策を知りたいと思っているのですが」

老人は三冊のぶ厚い本を抱えて戻ってきて、この三冊は貸し出し禁止なので奥の部屋で読んでもらうことになると言った。老人に案内された部屋には羊男がいた。「僕」は牢屋に閉じ込められる。1か月後に老人が試験をし、三冊の本をきちんと暗記していたらそこから出してもらえるとのことだったが、実際はのこぎりで頭を切られ知識の詰まった脳味噌をちゅうちゅう吸われてしまうのだった。

夜7時にノックの音がしてドアが開き、これまでに見たこともないような美しい少女がワゴンを押して部屋に入ってきた。彼女は料理を机の上に並べて、手まねで「もう泣くのはやめて、ごはんをお食べなさないな」と言った。(wikipediaより引用)

村上春樹を読んだことがない方はこのあらすじを読んで、「何言ってんの? 日本語でおk」と思うかもしれませんが、村上春樹の作品は他の作品もだいたいこんな感じですw 意味や解釈を”考える”より、”感じ取る”ことが大切だと私は思っています。読んでみると面白いから!

あるいはもう読んでからこの記事を読んでいるあなたも、私も、文学研究者たちも、意味は理解していないと思う。でもそれでいいんだと思う。

『図書館奇譚(ふしぎな図書館)』の考察・解説・感想

話の内容は、夢の中のような不思議な場所を探検して、不可解な出来事が起こって、ホテルで出てきそうな洋風のおしゃれな食事、そして女の子との出会い。羊男まで出てくるというもの。オールディーズな音楽は今回は出てこない。電話もかかってこない。

主人公の「僕」(本作では他の作品と違って幼さも垣間見える・そして流されやすい)は、外界との間に一枚壁を作って他者と関わるというような感じ。

本作に特徴的な要素としては、主人公の流されやすさのほかには、”童話的な趣き”が見られるところ。老人の魔の手から逃れるために擬人化された動物・むくどりの手を借りるところとか。

あと、主人公の親(しかも母親)が(間接的にだけど)出てくるのも村上作品では珍しいですね(『1Q84』でも出てくる。あれは「僕」じゃないけど)。


この小説は、教訓がある寓話ではなく(例えば「裸の王様」みたいに)、何かの比喩表現や風刺になっているわけではなく(「意味」を考えるタイプの作品ではなく)、「感じ取る」作品なんだと思う。使うのは頭じゃなくて心。どんなふうに心が動いたかを意識すると、何かが見えてくる気がする。

そしてその内容は、人によってめちゃくちゃ多種多様なのが村上春樹の小説の特徴だ。なので、もし読書感想文の参考にするためにこの記事を読んでいる方は、何を書いても間違いにはならないので、安心して「ささいに思えること」「どうでもよさそうなこと」を存分に書いてほしいと思う。


それでも『図書館奇譚(ふしぎな図書館)』の意味や解釈を考えてみた

私はこの小説を、「僕」が少し大人になる(親離れする)小説なんだと受け取った。

「僕」は、他の村上作品の主人公と違って、流されやすかったり子供っぽかったりする。そこから、「老人」という”父的なもの・自己を制限する存在”との対立、そこで出会う「羊男」「美しい少女」との交流、そして「むくどり」の協力を得て、図書館(老人)から脱出する。

ラストで母親が亡くなるのは、「僕」の中の「内なる母親」の力が弱まるということなんだと感じた。


カンガルー日和 (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
1986-10-15


この短編集の最後に『図書館奇譚』が含まれています。ほかにも『1Q84』のもとになったといわれる『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』等も。私は『1Q84』を読んだ後に『4月のある~』を読みましたが、「なるほどねぇ…。」と思いました。

ふしぎな図書館 (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
2008-01-16


佐々木マキによる絵本版。話の内容はほぼ同じ(文章が少しだけ違う)。絵のテイストは、表紙の通りのコミカルでやわらかい感じ。小説版を読んだ後に読んでみたけど、また違った感じで面白かった。デフォルメされた絵がいい味出してる。写実的過ぎると、具体的な像を与えすぎて作品が浅くなってしまいそうかもと思うけど、これはよかった。

図書館奇譚
村上 春樹
新潮社
2014-11-27


カット・メンシックによる絵本版。こちらはまだ読んでいないのですが、ダークで写実的な絵であると、アマゾンレビューにありました。表紙の通りみたいですね。羊男がちょっと怖いらしい。


さらに、村上春樹の長編小説のおすすめをランキング形式で書きました。最高傑作は?

>>関連記事村上春樹の長編小説の超個人的・超独善的ランキング、ベスト5+α


  
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この記事を書いた人

konoha  konoha/コノラスTwitter [つぶやきと更新通知]note [喜怒哀楽に全力な日記]

 「良い作品と出会い、より深く楽しむためのレビュー・批評、そして思い出」を発信しているブロガー。好きなゲーム・音楽・文学などを全力で語る。嫌いな言葉は「明るく」「協調性」「頑張る」。学校が嫌いだった。近頃はnoteで、過去の重い話や好きなことで生きていくための歩みを書いている。

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